夕闇から溶ける飴


読んだら突然その後のお二人を書きたくなってしまったのでえいや、と。
久しぶりに創作しました。
拙いし、世界観ぶち壊しにきまっているのであえて作品名は出さない2次創作で。
軽くBLですので注意。

いつも通り、
やまもなけりゃ、オチもなく、意味もないよ!

「お前は、いつかまた会いに来る気がしてたよ」

 久しぶりに会った先生はそう言って笑った。
 その目元にすっと入った皺に年月が過ぎたことを改めて意識する。

「卒業してから…」
「10年です」

 答えると、先生は少しだけ目を丸くしてまた柔らかく笑んだ。
 笑みの理由がわからずについぶっきらぼうに「何?」と聞くと、
 生徒だったときは敬語なんてほとんど使わなかったのに、と言ってから。
 ぽつりと。

「大人になったんだな」

 と、零した。
 ついと先生が流した視線に合わせて自分も窓の外へと視線を動かした。
 夕暮れのオレンジが教室と俺たちを染めて闇色の影の線を敷く。

「先生、俺結婚するんです」

 窓の外を見たままでいうと、柔らかい声が「そうか」と答える。
 想像していた通りの少しだけ嬉しそうなのがわかる様な声。
 決して何も尋ねてはくれぬ相手に、無意味に同じ職場の2つ下の後輩の子なのだと告げた。
 先生は窓の外を見つめたまま、また「そうか」と返すだけ。
 わかっていた。
 それでも少しだけ何かを期待していた自分の浅ましさを自覚する。

「先生」
「ん?」
「俺ね、先生のことが好きだったよ」

 男同志だとか、生徒と教師だとかそんなことは全部関係ないところで動いた心だった。
 決してそれは明かされず、仕舞われていたけれど。
 だからと言ってそれは勘違いでも気の迷いでもなく、間違いなく恋だった。
 返事は期待していなかったけれど、唐突に振り返った先生は俺が好きだった甘ったるい笑みを夕闇色に染めて

「知ってたよ」

 と答えた。
 一瞬だけ息を詰めてしまってから俺も苦笑いを浮かべる。
 それ以外にどうしていいのかわからなくて。
 だから「そっか」とだけ言って笑って。
 もう他にどうしていいのかわからなかったから「じゃあ、俺もう行きます」とか言っちゃって。
 「おう」と返されたらもうそこには居れないから来客用のスリッパを引きずってきびすを返した。

「またな、先生」

 もう会わないのだとしても、あの時いつも言っていたみたいに。
 明日も明後日も何度でも会えていた時の様に俺は別れの言葉を口にした。
 先生も「おう」とまた答えるだけでまた窓の外に向き直ってしまう。
 そのままじっと背中に視線を向けたけれど、先生は振り向くことはなくタバコに火を点けた。
 タバコ…過去の記憶が揺すぶられたけれど振り切る様に俺は教室を後にした。
 来客用のスリッパがぺたりぺたりとリチウムの床を叩く音が響く。
 まだ校内の至る所から人の気配はするのに、俺はただ先生一人だけの気配に全神経を集中させていた。
 玄関から出て先生のいる教室を一瞬だけ見上げたけれど夕日に照らされた窓からは中の様子はわからない。
 がっかりしながら歩き始めると、上から名前を呼ばれた。
 自分でも驚くほどの勢いで振り返ると上から小さな袋が2つ落ちてきた。
 顔の目の前でそれを捕えると、「ないすきゃっち」という言葉も一緒に落ちてきた。
 指をゆっくりと広げると手のひらには飴玉が2つ。
 あの日貰ったのと同じ、甘くて赤い飴玉だった。
 見上げた先生の口元は確かに笑っていた。
 そこから立ち上る紫煙。
 その銘柄が俺の予想通りだったなら…なんて自分に都合が良すぎる妄想。

 先生。
 先生が最後まで決しておめでとうと言わなかったこと、俺は少し嬉しかったよ。

 タバコの銘柄を確認することはもうできないけれど。
 今手の中にある飴玉2つ。
 これだけは口にすることなく、俺はひっそりと持ち続けるだろう。
 この想い、恋の様に。


 end...

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